代表取締役社長 尾山 信一
SUTO LTD. 代表 古田 芳昭
1.世界中に銘木を求めて
私共の会社、北三(ほくさん)株式会社 (本社東京新木場)は、世界中で買い付けた銘木を薄くスライスした突板(ツキイタ)を生産しております。当社は北海道で履物店を営んでいた創業者の尾山金松が下駄の材料を求めて入った雪解けの山で偶然見つけたタモの玉杢の美しさに感動し、この時の思いが当社の創業に繋がりました。その後突板と出会い、その将来性を確信し関東大震災の翌年1924年に東京芝に店舗を建て突板の販売を開始して以来、今日まで「大自然が作り出した木目の美しさを通して暮らしの中に寛ぎや安らぎをお届けしたい」という思いを大事にしてやってきました。
「突板」という言葉は馴染みがない言葉だと思いますが、木目や柄が美しい、いわゆる銘木を大きなカンナのような機械で0.2㎜~0.5㎜程度の紙のような薄さにスライスしたものが突板です。突板はこのままの薄い状態では使用することは出来ませんが、これを合板・金属・ガラスなどの安定した基材に貼り合わすことで、木材が本来持っている「反る、割れる」というような欠点を最小化することができます。
現在、突板は様々なものに貼り合わされ、家具・楽器などの表面や住宅・ホテル・ホール・自動車・列車などの内装の化粧材料として使われております。
Design by Eiji Mitooka + Don Design Associates 材種についてですが、当社はもともとタモ杢や黒柿など和家具に使われる国産材を手掛けていましたが、生活様式の変化と共に洋家具が広まるにつれて、どんな木でも面白い木目や柄があれば家具の表面材として使って頂けるようになり、当社は海外での新材開発に力を注ぎました。日本で銘木と言えばケヤキやヒノキをすぐに思い浮かべますが、海外ではチーク、マホガニー、ローズウッドを始めとしてたくさんの銘木があります。当社がこれまで世界中から探し求めた銘木は300種類以上に達します。
2.ボリビアの銘木を求めて
さてそんな私共とボリビアとの繋がりは今から55年ほど前に遡ります。1960年代後半に当社はブラジルにおいて銘木中の銘木と言われていたJACARANDA(現地名ジャカランダ、国内名ブラジリアンローズウッド)の原木の買付を行っていましたが、サンパウロ近郊のサントス港の置き場でMORADO(現地名モラード、国内名パープルウッド)という、木目が美しい紫檀系の木に出会ったのがそもそもの始まりでした。一目で木口(こぐち:丸太を輪切りにした断面)から見える縞模様の美しさに魅せられた買付担当者が出場所を探したところ、ボリビアのサンタクルスより貨車で運ばれたことが判り、さっそくサンタクルスに行き、木材屋を廻りMORADO原木の買付が始まりました。
その後、ブラジルとボリビアで相次いで原木での輸出が禁止になったことから、1972年にブラジル タウバテ市にNORTRES(ノルトレス)社、そして1974年にボリビア サンタクルス市にSUTO(スト)社という突板生産会社を設立し、日本への突板輸出が始まりました。この二つの会社には、当社の社員に加え、海外移住事業団からの紹介者など合わせて15名の方が永住権を取得して赴任しました。
ブラジルに設立した会社のNORTRES社の社名がポルトガル語のNORTE(北)とTRES(三)を掛けて命名したのに対し、ボリビアに設立したSUTO社の社名は、嘗てサンタクルス市が造られた発祥地(現在の場所より220km東にある現在のSan Jose de Chiquitos辺り)の地名「SUTO」から来るものであり、豊富な湧き水が末広がりに町に流れ込み、とても縁起が良いことから、社名として名付けました。
3.ボリビア政府より伐採権を取得
1974年のSUTO社工場の竣工式には当時のウゴ・バンセル大統領にもご臨席頂いた事から、同社で生産している銘木の中にはこの大統領の名前を頂き、“バンゼルローズウッド”と名付けて、日本で販売した材種もあります。
SUTOの設立から数年後、山で原木を伐採し取得する権利である伐採権(コンセッション)を国から取得し、現在サンタクルス市より鉄道沿いに西に向かって約500㎞走ったSanta Anaという町の北部の山に5万ヘクタール(ha)の伐採権を所有しています。
木材の伐採といえば不法伐採や環境破壊などマイナスイメージが先行しがちですが、ボリビアの森林法はコスタリカの森林法を模して作られており、森林の持続的更新という点で、環境に配慮した非常に合理的な法律だと言えます。ご理解頂くために展示会等で使用しているパネル説明を次ページに示します。
4.ボリビアの木材ビジネス環境について
SUTOは1975年にサンタクルス県庁が造成した工業団地に、パイオニアとして最初に設立されました。現在ボリビア国内で使用されている殆どの木材は国内の自然林から供給されています。合板の材料となる成長が早く柔らかいセレボ(cereboや、鉱山の落盤防止の坑木に使用するユ-カリ(eucalipto)やチ-ク(teca)などの材種の植林もされていますが、まだまだ規模は小さく需要量を満たすには足りない現状です。
ボリビアでは、大手合板メ-カーや製材会社など数社が、政府から伐採権を取得して立木を伐採しており、当社もその中の1社で、約50,000ヘクタールの伐採権を保有していることは前段で述べた通りです。
実際に伐採する為には、立木のある場所をGPSで測定して地図を作成し、その他必要書類と共に伐採許可申請書に添付して審査を受けなければなりません。申請してから許可を取得するまでには相当な時間と手間と費用が掛かります。
現在ボリビアでは政府の政策により従業員の賃金は毎年上げなければならず、コストアップの要因となっています。また石油公団の生産減により天然ガスの輸出が減少している一方で、ガソリン・軽油は輸入に頼っており、加えて大豆,砂糖や牛肉の輸出規制(つい最近解除)もあり、外貨不足の状況となっています。 為替は1ドル=6.96bsに固定されているものの、現在、銀行ではドルでの支払いは受け付けておらず、その影響で闇レ-トでは1ドル8.5bsとなっています。その為、薬品や日用雑貨,建築用の鉄筋,そして車の部品や完成車など、輸入に頼っているものの物価が高騰しています。この様な中、木材の伐採から生産・出荷に関わる一連のコストも増加しており厳しい状況となっています。
木材市場についても、ボリビア国内は不景気のなか低迷しており、また輸出についてもウクライナやパレスチナ問題に加えて中国経済の低迷もあり、輸出額は前年度比25%減という状況となっています。
一方、当社が生産する突板の市場は主に日本や米国など海外がメインであるため状況は異なりますが、突板は化粧材として使われるため、ファッションと同様に、色や柄の流行の影響を受けることが多く、市場の動向を意識してニーズに合った材種を提案していかなければならないという苦労があります。
このような状況の中ですが、SUTO LTD.はおかげさまで今年設立50周年を迎えました。振り返れば本当にさまざまな出来事がありましたが、なんとか皆さま方のご協力を頂き、今日までやってくることが出来ました。
現在、世界的な環境保護などの流れにより、木材についても丸太での輸出禁止など規制が厳しくなっていますが、しっかりした森林法によって管理された森林から出材されているボリビア材については、まだまだ世界に知られていない材種も多くあり、今後ますます貴重な資源と評価され、市場が拡大されると確信しています。現状の経済環境は大変厳しい状況ですが、これを乗り越えて更に進んで参りたいと思っております。
(終わり)
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当社のホームページは以下の通りです。
https://www.hoxan.co.jp/english/company
※当社ショールームをご見学の場合は予約をお願いいたします。