たばこと塩の博物館『魅惑のボリビア』より抜粋
現在ボリビアは、行政的には9つの県に区分されているが、地形的な特徴からは大きくアンデス高原地帯、アンデス東麓の渓谷地帯、そして東部に広がる東部平原地帯という三つの地域に分けられ、各地域はそれぞれ独特の自然環境に恵まれ、異なる特徴を見せている。
【アンデス高原地帯 アルティプラーノ】
ボリビアの西側、つまりペルーやチリと国境を接する地帯には、一部に6,000mを超える山々も見られるアンデス山脈が走っている。
南米大陸の太平洋岸沿いを約1万kmにもわたり走っているアンデス山脈は、ペルー中部で東西二つの山系に分かれ、1,600kmほど南下したあたりで再 び一つの山脈になっている。このアンデス山脈が二つの山系に分かれている地帯、とくにペルー南部からボリビアを経て、ボリビア、チリ、アルゼンチンの三国 国境付近まで続く地帯はアルティプラーノとも称され、最大幅約500km、平均海抜3,500~4,000mの平坦な高原地帯となっている。
ボリビア国土の5分の1を占めているこのアルティプラーノは、古くから高度な文明が栄え、また鉱物資源にも恵まれていることから、ボリビアの人口の約44%が集まり、最も人口の集中する地域となっている。
アルティプラーノの作物
アルティプラーノは平均海抜が3,500~4,000mの寒冷地に広がっていることもあり、植物の生育に適した土地とはいえない。しかし、北部のティ ティカカ湖周辺は比較的季候が温和で降水量も多いため、アイマラあるいはケチュアといった先住民の人々により、ジャガイモ、キヌア(アカザ科の一年草)な どの作物が伝統的な農法により生産されている。
特にジャガイモは、ティティカカ湖周辺部にあたる中央アンデス中南部高地で最初に栽培されたと考えられ、現在でも非常に多くの変種が栽培されており、アンデスが生み出した代表的な作物といえる。
またキヌアは、そのヒエに似た種子にデンプンが含まれていて、粉にしてパン状に焼いたり、また粒のまま粥にして食されるなど、重要な食用植物として栽培されている。
アルティプラーノの動物
大規模な農業にはあまり適していないアルティプラーノでは、まばらに自生している植物を飼料として、アルパカやリャマといったラクダ科の動物の放牧が行 われている。アルパカは、主として毛織の素材とするために飼われている家畜で、その毛で編まれたセーターなどは近年日本でも多く流通するようになってい る。また、リャマの毛も織物などに利用されるが、アルパカほど品質は良くなく、むしろ荷役運搬用として利用されている。
アルティプラーノにはこの他グアナコ、ビクーニャというラクダ科の大型哺乳類が生息している。グアナコは毛や肉を利用するために、またビクーニャはその 最高級といわれる毛を得るために乱獲され、その数は減少の一途を辿っているが、絶滅の危機を免れるため、現在では保護策が講じられている。
ティティカカ湖
ペルーとボリビア両国にまたがるティティカカ湖は、海抜約3,800mという富士山より高い場所にある淡水湖で、その面積約8,700平方mというのは琵琶湖の約12倍に相当し、また最高水深は280mに達している。
全体に荒涼とした地であるアルティプラーノの中でこのティティカカ湖だけは気候が温和で、ジャガイモやキヌア、豆類などの栽培が行われている。
周囲に丈夫な木材を提供する森林が存在しないため、周辺に住む人々はティティカカ湖の水辺に生えるトトラと呼ばれる草を用いて舟を作り、湖上を行き来し ている。このトトラは「あし舟」と訳されることが多いが、厳密には葦ではなく、カヤツリグサ科の植物である。ペルー領内のティティカカ湖上には、このトト ラを集めて作ったウロス島という浮島がある。
【渓谷地帯】
アンデスの山脈の東麓には、氷河や河川に削られてできた渓谷地帯(エル・バリェ)が広がる。
このエル・バリェの北部は、「ユンガス」と呼ばれる高温多湿の亜熱帯気候に属する肥沃な土地で、カカオ、バナナ、コーヒーノキ、サトウキビ、コカなど、 熱帯性作物の生産が盛んに行われている。一方、海抜1,500~2,800mの南部は、気温は温暖であるが、北部のユンガス地域に比べて乾燥した地域と なっている。
エル・バリェもボリビア全土の5分の1を占めている。
エル・バリェの作物や植物
エル・バリェの北部に広がる肥沃なユンガス地方で栽培・収穫される作物は実にさまざまで、その土地の高度によっても収穫される作物の種類が異なっている。
荒涼としたアルティプラーノの下限3,500mから下がり始めると、トウモロコシやマメ科の作物の耕作地が見らるようになってくる。2,500mぐらい まで下がってくると徐々に亜熱帯性の植物が目立つようになり、小立も鬱蒼としてくる。そして1,500mまで達すると、森にはシダやラン科の植物、あるい は着生植物などが豊富になり、ユンガス地方の亜熱帯性の特徴が顕著になる。
しかし近年では、コーヒーノキ、カカオ、バナナ、柑橘系の植物、コカ、ヤマイモなどの栽培耕地面積が拡大されてきたため、自然の植物が少なくなりつつあ る。こうした現象は1,500m以下の地域でも見られ、キナノキ(樹皮からマラリアの治療薬キニーネが採取される)やゴムなどが、サトウキビ、あるいはパ パイヤなどにとって替わられるようになってきた。
【東部平原地帯 オリエンテ(あるいはリャノ)】
ボリビアという国については、「アンデス」という言葉を使って紹介されることが多い。しかし、国土の5分の3というボリビアの大部分を占めているのは、 「リャノ」とも呼ばれる、東部に広がる大平原地帯オリエンテである。オリエンテは全体として高温多雨の熱帯気候に属しているが、地域によって多少の違いが 見られ、その違いからオリエンテをさらに、北部のアマゾン地方と南部のチャコ地方、そして中央部とに大別することもある。
熱帯雨林の原生林に覆われた北部のアマゾン地方は、第一次世界大戦時のゴムブームの時には、天然ゴムの一大生産地として活況を呈していたが、ブームが 去ってからはマホガニーやキナノキを中心とした林業が行われるだけで、最近まであまり開拓の手が入らなかった。なお、この地方の一部は草原・湿地帯で、一 大牧牛地帯となっている。
北部とは対照的に南部のチャコ地方は、ほとんど雨の降らない乾期が存在することから、サバンナの様相を呈しており、人口密度も希薄である。
アマゾン地方とチャコ地方にはさまれた中央部一帯は、亜熱帯性の気候で、近年ではサンタ・クルスの町を中心にして著しい発展を遂げている
オリエンテの植物・動物
オリエンテの北部一帯は、鬱蒼とした熱帯雨林が広がっている。その南に続く地域にも熱帯雨林は残っているが、その他にパラゴムノキ、カカオ、クルミ、 ビャクダン、あるいはバニラなどの分布が見られる。またこの地域には、「アンデス」からは想像のつかないようなオニオオハシ、ペリカン、ジャガー、バク、 イノシシ、アリクイ、ヤマアラシ、シカ、サル、ワニ、ボア、毒ヘビなど、熱帯地域特有の生き物が生息している。
一方、南部のチャコ地方に広がるサバンナでは、サボテンなど乾燥に強い植物が見られるが、やや多湿な地域にはヤシが茂り、ケブラコ(ウルシ科の植物で樹脂は皮なめし・染料に使われる)、イナゴマメ、ゴウルリエア(マメ科)、アカシアなどの植物も見られる。
【タバコの故郷・ボリビア】
ジャガイモ、トウモロコシ、トマト、カボチャ、トウガラシなど、世界各地で栽培・利用されている植物の中で、いわゆる「新大陸」からヨーロッパにもたらされ、そこから世界中に広まっていったものは数多く、「タバコ」もそうした植物のひとつである。
現在、世界中で最も多く栽培されているタバコ(学名:ニコティアナ・タバカム)は、アンデス山脈の東麓、ボリビアからアルゼンチン最北部にかけての地域 に分布している、二つの祖先野生種の交配により生まれた種であると考えられている。また、ニコティアナ・タバカム以外にも、栽培種としてもう一種ルスティ カタバコ(学名:ニコティアナ・ルスティカ)が存在するが、このルスティカタバコも、二つの先祖野生種の分布が重なる、ペルーとボリビアにかけてのアンデ ス山脈の西側がその誕生の地であるとされている。こうしたことから植物としてのタバコの故郷は、ボリビアを中心としたアンデス地方であるとされる。
また、「タバコ属植物」と呼ばれる植物は、野生種が64種、栽培種が2種、そして園芸種が1種の合計67種が存在するが、そのうち16種ものタバコ属植 物がボリビアに存在することが確認されている。(そのうちの1種は、日本人により発見されたもの)ことからも、ボリビアは植物としてのタバコと縁の深い国 であるといえよう。
なお、ボリビアは植物としてのタバコの故郷の地であるが、その利用については、コカ利用のほうが盛んであったようで、「喫煙文化」はむしろ中米地域でより発達を遂げたと考えられている
【ボリビアの塩湖】
アンデス山脈は、はるか昔の地殻変動によって隆起し、現在のように6,000mを超す山々をいただく山脈となった。ボリビアのアルティプラーノの南部一 帯も、アンデス山脈が隆起する前は海の底にあったことから、この一帯の土地には塩分が多く含まれている。そして約2万年前に、気候が温暖になり、氷河が溶 け出したが、氷河の水が川となって外へ流れ出るための出口がなかったため、地中の塩分を溶かし出した水は盆地状に土地に溜まり、塩湖を形づくることとなっ た。
こうした過程を経てウユニ、コイパサといった塩湖をはじめ、大小合わせて十数個にのぼる塩原が形成されるに至ったが、中でもウユニ塩湖は四国の約半分の面積を持ち、アメリカ大陸最大の塩湖となっている。